生物農薬
特定の生物を駆除するために使われる生物を生物農薬と呼んだりします。
柑橘類の害虫イセリアカイガラムシを駆除する目的で移入されたベダリアテントウや、ハブを駆除するために放たれたマングース、沖縄のウリミバエの根絶のために工場で大量に作り出されたウリミバエの不妊雄などこれまでに多くの生き物が知られており、狙ったとおり効果のあったもの、逆に弊害の出たものなどさまざまです。
農作物を見てみると、昔は害虫といってもかわいいものでした。しかし野山を開墾し大規模な農地を作り単一作物を大量に栽培し始めると、作物害虫の影響を無視できないものとなってきました。そこで登場するのが農薬です。特に近年開発されてその効果の高さから大量に使用されているネオニコチノイド系の農薬は、世界的に生物界のバランスを乱し、幼児に対する発達障害の影響の懸念が指摘されています。
農薬が使われていなかった時代と農薬が必要不可欠な時代の根本的な違いはどこにあるのでしょう。これは環境の貧富と生物多様性の有無に尽きると思います。そこに棲む多種の生き物がそれぞれのニッチを守っている環境下では特定の種の突発的大発生はほとんどありません。生態系が網に目のように働きあって、そこ独特のコントロール機能が生成維持されているからです。しかし、一旦環境が大きく破壊されてしまうとそこに生息できる生き物は限られ、天敵や競争の欠如現象などから、ややもすると特定種の大発生が起こります。
昔は畑地にはさまざまな作物が植えられ、周辺には多くの草花が咲き乱れていました。年間を通じて多種の生き物を養っていけるキャパシティがあり、それぞれが互いに結びついて大きな食物連鎖のピラミッドを形成していました。灌漑のための溝のそばにはメダケが茂り、農家はそのタケを切って野菜の心棒や棚に使っていました。タケの切り口の穴の中には芋虫やアオムシをさらってきて卵を産み付ける狩りバチが巣をつくり、野菜からアオムシなどを駆除してくれていました。しかしメダケの叢は区画整理のために駆逐され、タケの柵や心棒は化学製品に変わって穴がなくなり、狩りバチの餌は年間を通じて存在しない短期のものとなるばかりか巣作りも出来なくなってしまいました。このことはまさに「作物害虫さんどうぞいらっしゃい大発生しなさい」と手招きしている状況になっています。だからより強力な殺虫剤が必要で、農薬会社は常に喜ぶわけです。
昔のよき時代が再現できないかグリーンピアなかがわで昨年(2016年)小規模な実験をしてみました。メダケを切ってきて30cmほどに切りそろえて束にしてぶら下げ、狩りバチが営巣するかどうか観察したのです。その結果、何本かの竹筒は狩りバチが巣を作ってアオムシを運び込み、泥を使って塞ぎました。大成功です。
フランスの昆虫学者ファーブルの故郷セリニャン村にあるファーブル博物館を訪れたことがあります。ファーブルが往年研究施設として使っていた自宅で、ここで有名な昆虫記が書き下ろされました。庭などもファーブルが生きていたときのままで保存されていましたが、その一角に小さな屋根をつけた竹筒の束がありました。もちろん狩りバチの営巣用に造られたものでした。